「食は人の天なり」って言葉があるけど、毎日食べてるものって必ず誰かが作っていて、作った人がいるから自分の体が作られている。自分の体を作ってくれている人ってどんな人なんだろう?とりあえず大量生産・大量消費な世界のレールに乗らず、自分のビジョンに沿って生きてるんだから最高にCOOLだ。
だから僕もその世界を見てみたい。 だから会いに行こう。

※この記事は2021年7月発行のナチュレ片山フリーペーパー「& Nature Standard. vol.02」に掲載した対談内容を基に、紙面ではスペースの都合上泣く泣くカットした内容を追記し、再編集したディレクターズカット版です。

自然環境に負荷をかけない農業を目指して。
自然環境に負荷をかけない農業を目指して。

2021年7月某日@新潟県田上町。ナチュレ片山本店石田店長と訪れたのは、協同組合人田畑のふなくぼ農園さん。
循環型農業を目指し、自然栽培を始めるきっかけや、代表理事を務める協同組合人田畑のこと、石田店長と対談という形で話を聞かせていただきました。

石田店長(以下I)船久保さんはどうして自然栽培を始めようと思ったんですか?就農される前はスーパーの鮮魚で働いてたんですよね?
船久保栄彦さん(以下H)子供の頃から環境問題に興味があったし、生き物がすごい好きなんですよ。当時はスーパーの鮮魚の仕事が超好きで、売るのも楽しくて、良い魚をたくさん売ろうって頑張ってるんだけど、これを突き詰めて続けていくと自分の大好きな魚が居なくなっちゃう。それで大量生産・大量消費って仕組みに疑問を持ったんです。
それで実家が農業やってて、少しだけど農地もある。農業って美味しいものを自分で育てて、自分で販売して食べて喜んでもらえるってことで。
I そこは魚に行かなかったですか?
H まぁ、最初は魚好きだから養殖とか漁師しようかなって思ったんだけど、漁師っていかに獲るかとか守るかはできるけど、この魚をより美味しくしようってのは難しい。でも野菜だったら自分がどう育てたかで味が変わるから、育てるところで工夫の余地がすごく大きい。農家になって栽培の方法自体を自然環境に負荷をかけない、より優しい栽培方法で育てて、自分で販売してお客様に食べてもらう。で、そのお金でまたその栽培方法で育てるってことを繰り返していけば、どんどん良くなっていく。だから農業を仕事にするのはすごく面白いなと思ったんです。
そんなときに宮尾さん(宮尾農園)に出会って、「奇跡のリンゴ」を読んで自然栽培を知って、こんな方法だったらやりたい!って始めたって感じですね。それが13年前くらい。
船久保文美さん(以下F)やっぱ子供生まれてね。
H うん、子供生まれたのがきっかけだったね。

クリアな味ってこれだ!って。
クリアな味ってこれだ!って。

I 農業やるって決めたときは何から始めたんですか?
H 農業なんてすぐうまくいくなんて思ってなくて、宮尾さんの姿を見て自然栽培はめちゃめちゃ難しいと。何十年もやってるベテランの人じゃないとできないので、とにかくやりながら経験を積んでいかないと、ということで会社員やりながらとりあえず家庭菜園みたいなことから始めました。
I 農業を始めて最初にできた野菜は美味しかったですか?
H 別に普通だよね?
F うーん、味とかに衝撃はないかな。
I いつ頃から美味しいなって?
H いやー、わりと最近ですね。6~7年前くらいかな。
でも無肥料で育てた野菜を食べてるとあるとき気付いちゃうんですよ。他の野菜食べたときに「あれ?なんか美味しくない、クサい…」って。
F あるとき、いきなり気付いたよね。はじめは全然気付かなくて、なんか濃い?強い?って感じで。
H うちでいうとわかりやすいのが新潟冬菜とか。一般的に冬菜って「コレすごい苦くて、これが新潟の味なんだ、オツなんだ、つまみに最高なんだ」とか言うじゃないですか、そんなことないんですよ。まぁ苦味は感じるけど、エグ味みたいのは出ないんですよ。
F 友人の農家さんが「クリアな味」ってお客さんに言ってて、商売上手だなーって思ってたんだけど、あるとき「クリアな味」ってこれだーッ‼って2人でなったよね。

農業って超クリエイティブな仕事なんですよ。
農業って超クリエイティブな仕事なんですよ。

I 消費者さんに望むことってありますか?例えばもっと注目してよ!みたいな。
H・F ないなー。
H あっ!でも農家って大変だよねって思ってる人多いんですよ。で、農家もそういう風に言いがち。「農家って超大変で、汚いし、儲からないし、だからうちらの野菜買い叩かないで良い値段で買ってね。」って常にそんな発信の仕方じゃないですか。でも農家暮らしってすごい面白いし、農業って超クリエイティブな仕事なんですよ。
F しかも休めるしね。自分次第で。
H まぁ実際そんな休んでないけどね。
F でももうストレスがすごくて、会社に行くのもダメだってときは休めるじゃん。
I 確かに農家さんが心労で…って、いるかもしれないけど、個人でやってる人で見ないですね。みんなイキイキしてますよね。
H イヤだったら辞めればいいしねー。
農家って超面白いんですよ。だって重機乗ったりするんですよ、穴掘ったりして。いろんな機械を扱わないとできないし、一次産業に関わる技術とか学びって今軽んじられてるというか、全然価値がないように扱われてるように感じるんですよ。だけどやると楽しくて、鶏舎とかも鉄腕ダ〇シュみたいに自分でやるんですよ。それが面白くて、それで育てたものを食べて喜んでもらうと、こんな面白い職業ってそんなないと思うんですよね。
F …なんの話だったっけ?
H だからお客さんに…。だって「大変ですね」ってすごい言われるんですよ。でも全然大変だなんて思ってなくて、楽しく好きでやってるだけなんですよ。
I うん。船久保さんと話していると「農業楽しい!」ってのが伝わってきます。
H だから今、買う人と生産者で楽しさを共有できるようにするにはどうすればいいかな?ってのも結構考えています。
農地っていうものを食べる人も一緒にシェアできるような仕組みができたらもっと面白くなるんじゃないかな。そうしたら子供が来るのに、農薬とか…「これ舐めちゃダメだよ」みたいなの撒けないじゃないですか。そう考えていくと自ずと人にも自然にも優しくなれるんじゃないかなと。

獲れないと真顔で心配される…。
獲れないと真顔で心配される…。

I 農業やってて、こんなとき嬉しいなってありますか?
F 最初はマルシェで美味しいって直接言ってもらえて嬉しかったね。
H そもそもの動機だし顔が見える人に販売して、喜んでもらえるのを身近に感じると嬉しいですね。
I 反対に「あぁ農家ツライ…」って思ったときは?
H・F 全然ないですね。
F ただ去年はね、みんな落ち込むくらい獲れなかったね。
H でもしょうがないからね、自分たちの技術の問題でもあるし。おれは30分くらいヘコんで、あぁ文美は2日くらいか。
F でも今年こそはちゃんと獲れないとって思ってたよ。なにより私たちよりも親が心配する。獲れないと「これずっと続けるの?」って心配されるの。
H 農業ってよりも無農薬だよね。無農薬ってのがそもそも家族との軋轢がすごい。散々戦って説得して続けてるのに、2年連続で米獲れなかったりすると、「生活大丈夫なの?」って真顔で言われちゃう。
F もう孫が心配みたいな。
H この田んぼなんて一般栽培なら30㎏の袋が130袋くらい獲れるんですよ。去年は12袋しか獲れなかったですからね。
一昨年も全然で、「今年こそは!」って言ってたのに、たまーに稲がいるくらい…もうこりゃ獲れないわってなって、お客様みんなに謝りの手紙送ったもんね。
H・F コレだ!これ切なかったね!!

自然栽培は肌感覚でわからないと。
自然栽培は肌感覚でわからないと。

I 船久保さんたちがやっている自然栽培をしたいって言うような農家さんは増えてきているんですか?
H いや、いないな。特に変わりなし。まぁちょっと来るけどね…。
I やっぱそれはお金にならないとか、楽しくないからとかですか?
H いろんな要因はありますね。やっぱ難しいし。
F だってさ、やれるまで時間かかるし。
H 根本的なところは、農的な暮らしがしたいのか、農業で飯が食べたいのか。まずはその見方が混ざってる人もいますね。
F 有機はどうなの?
H 有機もだね。入りやすい有機農法もあるけど、やっぱスタートですごいお金がかかるし、先立つものがないと難しいよね。
I 自分でやってるけど、広まるはずがないって思ってる農家さんもいますよね。
H 自然栽培の場合は真似しようとしても真似できないんですよ。フルオープンで全部見せて、全部説明して、同じにやってみてってやっても絶対同じにならないから。
I 土も違うし?
H 土も違えば、この温度だったらコレ入れよう、コレ撒こうの「コレ」がないから真似のしようがない。肌感覚でなにかわからないとできないし、その技術も必要。
去年みたいによくわかんないけどちょっとミスっただけで収穫がほぼゼロみたいな。そこまでリスク負ってやろうなんて、よっぽどじゃないと。
I 畑見に行くとこれ有機?ってとこもありますもん。
H JAS認証を取ってるけど、それ大丈夫なの?って肥料使ってたり?
I とかー…、前そこで野菜作ってるときにちょっと農薬使って、でその土で別の野菜作って有機として売ってたりとか。
H あぁぁぁそれはダメだね。農薬って使ってみるとわかるけど、思いの外強い。土に撒くやつとかは残存がすごくて平気で二作くらい残ってる。
だからといってその作物が悪いかっていうとまた違うし、でもそれを故意にして価格を高くしようってのは僕らは気持ち悪いんですよ。

世界一おいしいごはんが食べられるNIIGATAをつくる。
世界一おいしいごはんが食べられるNIIGATAをつくる。

I  「協同組合人田畑」というのは小さな農家さんが集まって、ひとつの方向に進んでいくっていう認識でいいですか?
H そうですね。一軒一軒では出来ないこともみんなでやればできるよね。ってのと、農家自身でいろいろやる事でコストを下げればお客様に還元できる。という事もあります。そもそもの活動理念は「世界一おいしいごはんが食べられるNIIGATAをつくる」という思いで集っています。栽培方法のこだわりは、あくまでもこの理念の実現に向けたプロセスだよねと。そして、「生産者と消費者」という枠を取っ払って一緒に田畑で楽しみ、抜群に良い素材と楽しい仲間たちで、美味しいごはんを食べようというのが「人田畑」の想いです。
その勉強の土台でもあるし、拠り所でもあるし、旗印という意味でも人田畑という協同組合を協同で立ち上げました。
F あとは新しい人も入ってきてほしいですね。無農薬で栽培したときに売るところがあるんだってなると入りやすい。っていうのもすごくあったよね。
H 新しく無農薬で農業始めようってなってもなかなかハードルが高い。時間だってかかるし。だったら協同組合に入って一緒に活動して、一緒に販売までやれるってのは仕組みとしてすごく良いなって。
I 単純な疑問なんですが、船久保さん理事長じゃないですか。いろんな農家さんが集まるじゃないですか。話まとまります?
H まとまりません!(笑)

小さな農家が表現できる場所があるって大きい。
小さな農家が表現できる場所があるって大きい。

I 最後に、ナチュレ片山については何か?
F ナチュレさんに対してはよく2人で話してるよね。
H 真面目な話をすると、小売店に居たんでたくさん仕入れてたくさん販売することでコストを抑えてたくさんの人に提供するってのが基本じゃないですか。でもそこには小さい農家って入れないんですよ。でもその農作物がここに行ったらあるよ、って表現できる場って僕たちにとって非常に大きい。他所で置いてもらってもただ置いてあるだけじゃ表現できなかったこともあるので、それをちゃんと表現して販売しようって窓口があるってのは相当大きい。流通としてもいろいろすっ飛ばして直接持って行ってやり取りできるのも、すごくありがたいですね。他県の人にも新潟でそんな場所があるってのは羨ましがられます。お客様から見ても良いことだと思うんですよ。ナチュレに行けばそういったものが買えるってわかるんで。
I ナチュレ片山に期待することはあります?
H なんだろうなー…。とりあえず目の前のお客さんに喜んでもらうってのを積み重ねて、そこを目掛けてお客さんが来るようになってほしいですね。
あと、これから流通自体が激変していくから、小さな生産者が多様な世界で残っていくために、多様という価値観を大事にやっていけるような個性を磨いていって「ここにしかないお店」ってなっていくといいですね。そしてそこを拠点として小さい生産者が経営をやっていける。amaz〇nとかデカい流通に負けないくらいの核になってくれるといいな…って言いすぎ?
I いえ、期待していただいてありがとうございます。そうなれるよう頑張っていきますので、今後ともよろしくお願いいたします。
本日はありがとうございました。
(取材時撮影・編集/大竹晃)

協同組合 人田畑 ふなくぼ農園
協同組合 人田畑 ふなくぼ農園

船久保栄彦(ハルヒコ)さん・文美(フミ)さんご夫妻。栄彦さんは人田畑の代表理事を務めるスーパーブレーン。
農業のこと、自然環境のこと、未来のこと、そして家族のこと、どれもすごく真剣に向き合っている
とてもパワフルでインテリジェントな農家さん。

協同組合人田畑HP:http://oishii-niigata.com
ふなくぼ農園HP:https://www.funakubonouen.com

協同組合 人田畑の自然栽培米商品