いつも食べているお肉や卵。「いただきます」って言葉の通り動物の命をいただいていて、産業動物はなくてはならない存在だ。僕は普段なかなか直視できないけれど、産業動物の命と真剣に向き合っている人もいて、その人には何が見えているのだろう?
話を聞けばたった1つの卵でも、見る目が変わるかも。

※この記事は2021年12月発行のナチュレ片山フリーペーパー「& Nature Standard. vol.03」に掲載した対談内容を基に、紙面ではスペースの都合上泣く泣くカットした内容を追記し、再編集したディレクターズカット版です。

自由な環境の方が卵も肉も美味しくなる。
自由な環境の方が卵も肉も美味しくなる。

11月某日雨上がり@阿賀野市。約3500羽の鶏を平飼い・放し飼いで育てているひよころ鶏園さん。園内に入ると放し飼いされた鶏たちとたくさんの犬⁉がお出迎え。そして奥には羊やヤギまで。自由な環境で育った鶏とその卵は何が違うのだろう。ナチュレ片山本店の石田店長と対談という形でお話を伺いました。
※対談では放し飼いも含め、すべて「平飼い」と表記しています。

石田店長(以下I)まず鶏を平飼いで育て始めたきっかけから教えてください。
川内さん(以下K)子供の頃から動物が好きで、いつか家畜を飼うつもりだったんですが、二十歳くらいの時に動物性たんぱく質と人口添加物のアレルギーが出るようになったんですよ。それで飼える家畜が限られて、消去法で鶏になりましたね。
この育て方をしている一番の理由は、美味しいからです。あと、ゲージに入れちゃうと全てをがんじがらめにして、全てを人が見てやらなければいけない。で、鶏に自由がない。だったら広い部屋や外で自由に好きに過ごしてもらう。彼らにとって健康的で楽しく過ごせる環境の方が卵も肉も美味しくなりますね。その代わりスペースを提供するのに手間がすごくかかりますが。
I一からここをお一人で作ったんですか?
K そうです。最初はプレハブ1棟で、扉開けるとヒヨコがピヨピヨピヨピヨって。ひよこがパニックになるから電気も付けれなくて。朝起きるとバカにしたかのようにキツネが入口に糞してるんですよね。夜真っ暗だし犬もまだビビりだったし…っていうところからコツコツとですね。
I 初めて卵を卸したときというのは売れました?
K 最初は地元のお店に卸したんですがビックリするくらい売れましたね。でもそれはお店の人が一生懸命アピールしてくれてたからなんですよ。なのでその後とりあえず置かせてもらったお店なんかはどんどん売場縮小されたりして全然でしたね。
I 鶏園を続けている中で喜びや苦労はありますか?
K やっぱりお客様から美味しいと言われてリピートしてもらえるのは嬉しいですね。あとはヒヨコが無事に初卵を生むようになるのは、今になっても嬉しいです。
苦労は…休みがないくらいですかね(笑)

黄身の色は味と一切関係ないですけどね。
黄身の色は味と一切関係ないですけどね。

I 卵も育て方で味が違うものですか?
K 全っ然違いますね。飼育環境や餌や水、品種で大きく変わってきます。卵は内臓器官の一種なので、特に黄身は違いが分かりやすいですね。
I ひよころさんの卵の黄身ってキレイな薄い黄色してますよね?
K 黄身の色は食べたものの影響なんですが、うちの飼料はお米を中心とした天然物の自家配合なので薄い色になります。代わりにお米由来の「リノール酸」が多く含まれているので甘味があります。
I 本来の黄身の色って?
K まぁ、鶏たちにとっちゃ黄身の色なんてどうでもいいですからね。ただ、日本人は濃い色が美味しいって擦り込まれてます。そもそも黄身の色は味と一切関係ないですけどね。
I 色を濃くするために飼料にパプリカとか入れるところもあるそうですが。
K パプリカとか紅麹とか天然物で色付けるのは全然いいんですよ。合成着色料とか危ないのもありますからね…。
I ラジオで遠藤麻理さんがひよころさんの卵割るとき「硬い‼」って言ってたんですよ。野生に近い環境だから外敵から守るために固いんですか?
K 若い鶏の卵は固いですね。卵が小さいですし、カルシウムが多いので。成長すると卵が大きくなるし、体内のカルシウムも少なくなるから薄くなりますね。
I ひよころさんの卵のオススメの食べ方はやっぱり「生」ですか?
K 生ですね。生で食べるんだったら良いものを食べてもらいたい。アレルギーを考えると、特にお子さんには飼料や環境がしっかりした卵を食べてほしいですね。

「子供のうちは外でいろいろ遊びなさい」みたいな。
「子供のうちは外でいろいろ遊びなさい」みたいな。

I 全国的に平飼いの割合はどの位ですか?
K 生産量では1%もないと思います。
I ヨーロッパは平飼いが一般的と聞きました。
K 一般的っていうかゲージ飼いが基本禁止なんですよ。
I 禁止なんですか⁉平飼いじゃなきゃダメ?
K だいたいがそうです。ゲージとかバカ言ってんじゃないよ。ってレベルの国もあるくらいですね。で、アメリカはゲージなんですよ。なので日本やアメリカはゲージで育てられた鶏の卵がメインです。
I ゲージ飼いも場所によって一羽一羽の幅もそれぞれですよね?狭くすればその分生産量も上がるじゃないですか?振り返れないくらい狭いとか。
K それが今は1つのゲージに二羽入れるんですよ。一羽だとダラダラ食べるんで競争させて食べさせるんですよ。28cmだったかな、その幅に二羽。ゲージの幅は鶏の幅で限界があるので、縦に7段とか9段とか積み上げていって生産数を増やします。
I ひよころさんはすべて平飼いで、飼料は新潟県産米がメインですが、他所のゲージ飼いの鶏は何を食べてるんですか?
K 配合飼料ですね。内容としては、トウモロコシとか穀類など天然物だけでは賄えないので、栄養剤や病気にならないように抗生物質だったり、餌に対する防カビ剤だったりは入ってきますよね。自分だとそれが影響してアレルギーが出ちゃうんですよ。

I ゲージの場合、病気って広がりやすいんですか?
K そうですね。例えば1,000羽の鶏って親鳥が同じならベースが一緒なんですよ。言ってしまえばコピーの状態。ゲージだと餌も環境も同じでギュウギュウにしている。1,000羽いても一個体と思っていい状態。
I 個体の多様性がない?抵抗力が一緒ってことですか?
K まったく一緒ですね。なので飼料に抗生物質をってのは、ゲージにスズメなんかが入ってしまうとドミノ倒しのように病気が一気に広がって全滅してしまう。
I そういったリスクはあるんですね。
K 逆にうちみたいな平飼いは外でいろんな自然力に触れることで免疫強化にも繋がって、抵抗力を持つことになります。遊ばせてやって健康的な食事や外でミミズなんかも勝手に食べて元気に育てる。「子供のうちは外でいろいろ遊びなさい。」みたいのと一緒ですよね。
I そういったゲージの環境というのは、鶏にとって負担というのは…。
K 大きいですよね。性格なんてどうでもいいわけですし。より小さくてより食べない個体で、より大きい卵を産む。という生産性を突き詰めた形ですよね。鶏のこと考えると、可哀想だなって思いますが。
I ゲージに入れてから死ぬまで出さないんですか?
K 出さないです。死ぬまでっていうか…役目が終わるまで。出すときもガーっと集めてそのまま屠畜場に運んで、って感じです。
I うーーーーーーーん…。
K ゲージ飼いの卵も今の需要を考えると、それだけ集約して生産しないといけない部分はありますよね。
I だって今コンビニとか冷食とかお菓子とか、なんにでも卵は使われているじゃないですか。それを全部平飼いの卵で賄うというのは無理な話ですよね。
K なので特に業務用で使うものなんかは、人工鶏卵とかできたら鶏も傷まないのになーとか考えるんですけどね。なんでできないんでしょうね?

産業動物としての寿命は短い。
産業動物としての寿命は短い。

I ひよころさんのお肉は若鶏ではなくて、親鶏とか大きくなった鶏?
K そうですね。うちだと240~300日齢くらいです。
I 一般的に若鶏って生まれて何日くらいなんですか?
K 普通若鶏って言われるものが45日齢で、いわゆるKFCサイズって言われてるのが38日齢の若ーい鶏。ブロイラーって品種とかは50日で3㎏前後になって、その代わり歩けないんですよ。重くて。うちの鶏はその日数だとまだピヨピヨで小さいですよ。
I 本来の成長速度を無視して大きくなっちゃう?
K 歩けないから胸擦って這ってるんですよ。それ見ちゃうとスゲーな…って。
I う、うーーーーーーーーん…。
K 成長曲線が穏やかになる前後に出荷するのが一般的です。なので早く大きくなった方が出荷するまでの日数が短くて、餌などのコストを抑えられますよね。
I 確かに効率はいいですが…。
K 自分も昔は若鶏が美味しいと思ってました。実際柔らかいんですけど、味が薄いんですよ。成長と共に硬くなりますが、肉の旨味は格段に増してきます。鍋や焼き鳥などシンプルな調理が向いていて、歯ごたえがあるのでたくさん食べなくても満足感がありますよ。
I 逆に寿命ギリギリの鶏はどうなんですか?
K 10年くらいですか?
I 10年⁉鶏って10年も生きるんですか?
K 生きますね。なので鶏って産業動物としてはすっごく寿命が短いんですよね。

ずっしりと重い立派なシャポンになってくれると嬉しいです。
ずっしりと重い立派なシャポンになってくれると嬉しいです。

I 先ほど試食させていただいたシャポンって鶏は去勢した雄鶏なんですよね?
K そうですね。フランスとかだとクリスマスに食べる柔らかい鶏を準備するために去勢してたんですよ。でもその技術はなかなか外に出なくて、日本では全然流通してないですね。去勢しただけではシャポンと言える大きさや肉質にならないので、技術や時期や術後の飼育も難しくて広まらないです。
I 川内さんがご自身で去勢手術をしてるんですよね?
K はい。腹切って取ってますね。うちでは麻酔も縫合もしないんです。取った後すぐ餌を食べるくらいにしないとシャポンと言えるサイズにならないんですよ。ずっしりと重い立派なシャポンになってくれると嬉しいですね。
I 去勢すると食べる餌の量というのは増えるんですか?
K 増えますねー。食に対する欲求が強くなります。性欲がすべて食欲に行くような感じです。
I 去勢する雄鶏もある程度大きくなってからですか?
K いや、去勢する時期も難しいんですよ。第二次成長期が始まるギリギリの時じゃないと、取れなかったり、出血が多くなってしまったりで…。
I 話聞いているとちょっと痛くなってきます(笑)
K 実際はそこまで広く切らないので出血もほとんどないです。その技術が難しいんですが2~3分ほどで素早く取ります。器具の洗浄や消毒の方が時間かかりますね。
I 今後シャポンはどういった方向で商品にしていきますか?
K シャポンは脂が乗っていて、肉が柔らかくて、旨味が強いのが特徴です。この三つのバランスの良いところで季節通じて出せるようにしていきたいですね。
I すっごく美味しかったです。
K さっき食べてもらったシャポンの焼き鳥や鍋用のセットの販売も今準備してるので、出来次第お店に持って行きますね。

すべてを自分の手で責任を持って行う。
すべてを自分の手で責任を持って行う。

I 今後の目標を教えてください。
K 2005年に鶏園を始めた時からの目標が「ヒヨコからお肉までのすべてを自分の手で責任を持って行う」ということだったので、それがようやく形になってきました。これをまずは軌道にのせること。
I 消費者さんに伝えたいことや、伝わってほしいことはありますか?
K そうですねー。どれだけこだわりを持っても食べる人が美味しいと感じなければ意味がないので、やはり美味しいと感じてもらいたいです。そのうえで、卵やお肉のバックボーンを知っていただき、共感を持ってもらえれば嬉しいですけど…やっぱり「美味しい」が一番大事ですね。
I 最後にナチュレ片山について。
K 正直、驚くほど卵が売れているので、コンセプトに共感するお客様がたくさんいるんだな。と感心しています。
あと、ナチュレさんから使ってみた感想やお客様の反応などをフィードバックしてもらえると助かりますね。解消できる部分は工夫できるので、もっともっと商品を使いやすく美味しくブラッシュアップしていきたいと思います。
I 来年には「クリスマスはシャポン‼」みたいな売場も作りたいですね。
本日はありがとうございました。
(撮影・編集/大竹晃)

五頭山麗 ひよころ鶏園
五頭山麗 ひよころ鶏園

代表 川内寛之さん。三児の父。
『自分たちが食べ続ける事が出来る安心・安全』として
鶏たちを家族のように思い、やさしく真剣に命と向き合っている畜産農家さん。
鶏園を始めてから、なかなか自宅に帰れないのが悩み。

ひよころ鶏園HP:http://hiyokoro.jp

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ナチュレ片山フリーペーパー「& Nature Standard.」にて掲載した対談のバックナンバーです。